卓上NMRでマイクロプラスチックを測定・拡散NMRによる新しい環境分析法
卓上NMRでもマイクロプラスチックが見える?
拡散NMRによる新しい環境分析法
マイクロプラスチック(MP)は、環境に長く残留し地球規模の環境課題となっています。しかし、自然環境中の複雑な試料(例えばバイオフィルムや土壌)から、これら微小なプラスチックを正確に識別・定量するのは簡単ではありません。
これまで主流だった赤外・ラマン分光法では、有機マトリクスや汚染物質の影響で分析が難しい場合も多くありました。そのため、信頼性が高く、標準化された分析手法の確立が求められています。そこで登場したのが「定量NMR(qNMR)」によるアプローチです。
今回ご紹介する論文(👉Microplastic quantification in environmental samples with complex organic matrices by diffusion NMR *原文リンク)では、これまで高価な高磁場NMR(500 MHz)でしか行えなかったqNMR法を、より手軽な卓上NMR(80 MHz)へ応用することに成功しました。
さらに、分子の動きを利用する「拡散NMR(Diffusion NMR / DOSY / PGSTE)」を組み合わせることで、異なるポリマーを溶液中の拡散速度(分子の動きやすさ)で分離・解析しています。
研究チームは、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)など7種類のポリマーを対象に、卓上NMR(80 MHz)での定量測定を検証しました。
その結果、5種類のポリマーで良好な直線性(R²>0.99)を示し、定量が可能であることを確認しています。
一方で、PVCは信号の重なりにより直接定量が難しいものの、拡散NMRを用いることで半定量的評価が可能であることを示しました。
また、PAN(ポリアクリロニトリル)については、溶媒の影響により別条件での測定が必要とされています。
さらに、環境由来の試料(淡水バイオフィルム)に対しても、メタノール洗浄と過酸化水素(H₂O₂)による有機物除去を組み合わせた簡便な前処理で、6種類のポリマーを80〜100%の回収率と良好な再現性を達成しています。
この結果は、低コストかつ省スペースな卓上NMRを使って、従来法よりもポリマーの分解を抑えつつ環境試料中のマイクロプラスチックを高精度に定量できる可能性を示しています。
研究チームは、卓上NMRを用いた拡散測定が、環境中のマイクロプラスチックを高精度かつ効率的に評価するための分析手法となり得ると結論づけています。
環境分析におけるNMRの新しい使い方として、今後の応用拡大が期待されます。
環境関連情報:
👉卓上NMR Spinsolve × グリーンケミストリー・熱分解油の19F卓上NMR解析
👉卓上NMRでマイクロ波PET合成のスクリーニングの紹介
卓上NMR資料: