
光の力で水を浄化:パラセタモールを分解する新しいビスマス光触媒の開発
水中の医薬品汚染を、可視光で分解する新しいビスマス系光触媒。その性能と構造を、Timegate®ラマン分光によって詳細に解明した研究をご紹介します。
環境化学工学ジャーナルに、Sajad Ahmadi、Velma Beri Kimbi Yaah、Kati Asikainen、Soukaina Ameur、Rafal Sliz、Sergio Botelho de Oliveira、Matti Alatalo、Rachid Brahmi、Satu Ojala ら研究者による論文 「Enhanced visible-light activity of bismuth-rich oxybromide photocatalysts: Focus on synthesis, characterization, and modeling:ビスマスリッチオキシブロミド光触媒の可視光活性向上:合成、特性評価、およびモデリングに焦点」 が発表されました。
本研究では、水中のアセトアミノフェン(パラセタモール)分解を目的に、ビスマスオキシブロミド(BiOBr)およびビスマスリッチオキシブロミドを光触媒として利用する可能性を調査。
BiOBr、Bi3O4Br、Bi24O31Br10 をソルボサーマル法により合成しpHや温度が構造や光触媒活性に与える影響を検討。
Timegated® ラマン分光法を用いて光触媒のラマンスペクトルと構造情報を取得し、特に Bi3 および Bi24 光触媒に関して Timegated® PicoRaman 分光器でデータ収集を行いました。その結果、ラマン分析による構造情報は X線回折(XRD)データと一致し、Bi3-180 °C* は Bi24、Bi24-110 °C** は Bi3 であることが確認されました。
160 °C で合成された Bi3O4Br 光触媒 は優れた性能を示し、アセトアミノフェンを 80% 分解し、全有機炭素(TOC)の顕著な除去を達成しました。特性評価と第一原理計算(DFTモデリング)により、この構造が電荷キャリア分離の改善やスーパーオキシド生成の促進に寄与していることが明らかになりました。本研究は、ビスマスリッチオキシブロミドが可視光駆動型光触媒として医薬品汚染物質の除去に有効である可能性を示しています。さらに、安定性試験により光触媒の構造的安定性も確認されました。
要旨(Abstract 和訳)
ビスマスオキシブロミド(BiOBr)は、水中の医薬品分解に有望な可視光応答型光触媒です。しかし、BiOBr の光吸収は可視光の限られた範囲にとどまり、電子・正孔の再結合速度が高いという課題があります。これに対し、Bi3O4Br や Bi24O31Br10 といった ビスマスリッチオキシブロミド は、より優れたバンド構造、光学特性、電荷キャリア分離効率を持つことが期待されています。
本研究では、BiOBr、Bi3O4Br、Bi24O31Br10 を制御されたソルボサーマル法で合成しました。合成条件は 110 °C、160 °C、180 °C でそれぞれ 18 時間としました。その結果、pH と温度が最終生成物の構造、形態、結晶性に影響を与えることがわかりました。酸性(pH ≈ 1)では BiOBr が得られ、アルカリ性条件では Bi3O4Br や Bi24O31Br10 といったビスマスリッチオキシブロミドが生成しました。Bi/Br 原子比の増加は電子バンド構造を変化させ、アセトアミノフェン分解における光触媒活性を向上させました。
光触媒の中で、Bi3O4Br-160 °C が最も優れた可視光活性を示し、360 分でアセトアミノフェンを 80% 分解し、全有機炭素を 50% 除去しました。特性評価と DFT モデリングの結果、この光触媒は伝導帯下端のエネルギーが最も高く、スーパーオキシド生成を促進し、電荷キャリア分離効率を向上させていることがわかりました。
本研究は、BiOBr、Bi3O4Br、Bi24O31Br10 の詳細な特性評価を行い、医薬品汚染物質除去における可視光駆動型光触媒としての有効性を明らかにしました。
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