
EV・AAVの識別にTimegateラマンが有効
近年、エクソソーム(EV)やウイルスベクター(AAV)は、バイオ医薬品や遺伝子治療研究において不可欠な存在となっています。しかし、それらの品質や純度を非破壊・非標識・迅速に評価する手法は、これまで限られていました。
本記事では、時間分解型ラマン分光(Timegateラマン)を用い、EVやAAVベクターを評価した実験をご紹介します。
【背景】なぜEVやAAVの評価が難しいのか?
EVやAAVはナノサイズの粒子で、構成成分の違いがわずかであることから、従来の粒径測定(NTA, DLS)や顕微鏡観察では見分けがつきません。
また、**ラマン分光(CWラマン)**による分子情報の取得は理論上有効ですが、生体試料に含まれる強い蛍光成分がラマン信号を覆い隠してしまうという課題がありました。
【Timegateラマンの活用】蛍光を除去し、本来のラマンスペクトルを取得
Timegateラマンは、ピコ秒レーザーと時間分解検出器を組み合わせることで、蛍光成分を時差的に排除し、純粋なラマン信号のみを抽出することができます。
その結果、EVやAAVのような蛍光の強いサンプルからも、成分の違いに基づいたスペクトル差を明瞭に捉えることが可能となります。
【図2】主成分分析(PCA)により粒子群の違いを可視化
下図(図2)は、Timegateラマンで取得したスペクトルに対して主成分分析(PCA)を行った結果です。
EVやAAVにそれぞれ異なるタンパクマーカー(CD9、CD63など)を持たせた複数サンプルにおいて、PC1・PC2軸上に分離されることで、明確なクラスター形成が確認されました。このことから、スペクトル情報に基づいてEV/AAVの違いが反映されていると分かります。
【多変量解析結果】判別に寄与するラマンシフト帯域の特定
さらに、多変量解析により「どの波数帯域がEVとAAVの識別に寄与しているか」を可視化したのが以下の表です。
【まとめ】なぜTimegateラマンなのか?
本実験では、以下の理由からTimegateラマンが極めて有効な手法であることがわかりました:
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蛍光を抑制できる → CWラマンでは不可
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非破壊・非標識で分析可能 → フローサイトなどと異なる
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高速で測定可能(数秒〜数十秒) → TEMやMSより高スループット
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EVやAAVの成分差を分光的に捉え、識別できる → NTAやDLSでは不可能
EVやウイルスベクターの品質評価や分離工程の最適化において、Timegateラマンは新しい選択肢として非常に有望です。
💡今後の展望
今後は、AIによるスペクトル判別の自動化や、製造プロセス中のインラインモニタリングへの応用も視野に入れており、非侵襲・リアルタイムでの品質評価という点で、ラマン分光はますます重要性を増していくと考えられます。
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