
Timegateラマン分光法:
蛍光の影に隠れた真のスペクトルを時間で切り出す先進技術
Timegateラマンは、従来の連続波ラマン分光法とは異なり、ピコ秒レベルのパルスレーザーとCMOSーSPADを採用することで、ラマン散乱と蛍光の時間差を利用し、干渉の少ない純粋なラマンスペクトルを取得することが可能です。
この「時間の制御」という特長により、蛍光背景の強いサンプルや生体試料、複雑なマトリックス中でも高精度な分子情報の抽出が可能となります。
さらに、時間分解によって得られるダイナミクス情報は、従来法では観察が困難だった現象の解明にも貢献します。
ラマン分光に新たな次元「時間」を加えることで、Timegateラマンは、非破壊・非侵襲なリアルタイム分析の可能性を大きく拡げます。
最適な測定結果を得るバーチャルゲーティングの活用方法
バーチャルゲーティングを使用することで、測定対象の遅延時間範囲を細かく調整することが可能になります。ここでは、バーチャルゲートの調整とは何か、そしてそれが測定結果にどのような影響を与えるかを見ていきましょう。
3Dラマンスペクトル
時間分解スペクトルは、シグナル(強度)、ラマンシフト、および遅延時間の軸で構成されています。ラマン応答は、発光パルスのピーク付近で観測されます。この測定における遅延時間範囲は約1ナノ秒(8.63~9.75 ns)です。
Timegated®ラマン分光法の主な目的は、ラマン信号が集中する遅延時間領域を選択的に取得し、時間的特性の異なる蛍光干渉を効果的に排除することにあります。これは、発光パルスの初期領域を含める一方で、蛍光が支配的となる後半領域を除外することです。
3Dラマンスペクトルの側面図
ラマン応答は発光パルスの初期段階(緑のボックス)で観測されます。一方、蛍光は遅延範囲の後半部分(オレンジのボックス)に多く見られます。ラマンと蛍光の重なり具合は、試料の蛍光特性により異なります。
1つの測定では、通常1ナノ秒以上の遅延範囲を含みます。その後、”バーチャルゲート”設定で、最終的なスペクトルに含めたい時間範囲を絞り込むことができます。
バーチャルゲートによる遅延範囲の調整が測定結果に与える影響の例を以下の図に示します。バーチャルゲートの範囲は、測定終了後でも、元の測定遅延範囲内であれば何度でも調整が可能です。
バーチャルゲート範囲を発光パルスの初期部分だけに絞ると、蛍光が除外されます。さらに初期方向へ遅延範囲を縮めると、蛍光の重なりも排除できますが、ラマン応答の一部も除外されてしまいます。蛍光とラマンの重なりの程度は、試料の蛍光特性により大きく左右されます。場合によっては、蛍光が非常に速く、ラマンとの重なりが顕著になることもあり、その場合は、できる限り蛍光を除外しつつラマン信号の損失を最小限に抑えるというバランスが求められます。
2D Timegated®ラマンスペクトルは、指定されたバーチャルゲート範囲内のデータを平均または加算することで得られます:
バーチャルゲート遅延範囲
サンプルは、黄色の紙:8.75~9.75 ns のバーチャルゲート遅延範囲。
短めのバーチャルゲート遅延範囲

サンプルは、黄色の紙:8.75~8.95 ns のバーチャルゲート遅延範囲。短く設定することでラマンピークがより明瞭になり、強調されます。
最も狭いバーチャルゲート遅延範囲
黄色の紙:8.75~8.82 ns のバーチャルゲート遅延範囲。この範囲では蛍光干渉が最も少なく、ベースラインも最も低くなっています。ただし、ラマン応答の大部分も除外されているため、スペクトルにノイズが増加します。ノイズを抑えるには、測定時間を延ばすことで改善が可能です。
バーチャルゲートの制御
測定用UIでは、バーチャルゲートの範囲を簡単に調整することができます。
多くのユーザーは、ラマン信号と蛍光信号の比率(ラマン対蛍光比)を可能な限り高くすることを目指しています。
前述の図が示すように、Timegated®ラマン分光法では、ナノ秒未満のごくわずかな遅延調整でも明確な違いが観察されます。これらの変化は、Timegated®ラマンにおいては非常に重要ですが、従来のラマン分光法の時間スケールでは検出が困難であり、実質的に区別することはできません。Timegateラマン分光法では、1ナノ秒を超える遅延範囲でも、蛍光やリン光などのフォトルミネッセンスによる干渉を大きく低減し、さらにバーチャルゲーティングを活用することで、Timegated®の測定結果をきめ細かく調整・最適化することが可能です。
▶︎ Timegated®テクノロジーの詳細はこちらをご覧ください。
詳細については、ウェブサイトもご参照ください。