はじめに
アグロバクテリウムは、グラム陰性の植物病原菌で、一部の植物種に感染症を引き起こします。農業における細菌感染症の治療はますます困難になっており、かつて使用されていた強力な化学薬品は、望ましくなく、持続可能でもない解決策となっています。
一方でバクテリオファージ(特定の細菌のみを殺す自然由来のウイルス)は、作物を細菌性病原体から守るための実用的な代替手段となり得ます。
KUルーヴェン大学の取り組み
ベルギーのKUルーヴェン大学にあるロブ・ラヴィーニュ教授の研究室では、CellMakerという装置を用いてバクテリオファージの増幅を行っています。
ラヴィーニュ教授は20年以上にわたりファージの研究を続けており、大学内で複数のバクテリオファージ関連プロジェクトを監督しています。その中の一つのプロジェクトでは、アグロバクテリウムに対抗する独自のファージを利用し、作物保護の応用を目指しています。
方法
CellMaker Regular 8Lシステムを用いて、ファージの増幅を実施しました。
まず、5Lの低ナトリウムLB培地とアグロバクテリウムの接種液をCellMakerバイオリアクターバッグに注入します。光学濃度(OD)は600nmで測定し、開始時のOD値は0.05でした。温度は装置背面のペルチェプレートにより25℃**に維持されました。
8時間後、細菌のODは0.2に達し、この時点でファージをバッグ側面の接種ポートから添加しました。感染時のバッグ内のファージ濃度(タイター)は10⁵PFU/mLでした。
結果
感染からおよそ15時間後の翌朝にプロセスを停止。最終的なライセート(ファージ液)のタイターは1.25 × 10¹⁰ PFU/mLに達しました。
考察
これまでKUルーヴェン大学では、500mLの三角フラスコでファージを増幅してきました。この方法では、細菌を一晩かけて、OD0.3まで育てた後にファージを接種し、最終的に10⁹ PFU/mL程度のライセートを得ていました。
今回のCellMakerによる同様のプロセスでは、より低い濃度での接種にもかかわらず、最終的に1.25 × 10¹⁰ PFU/mLとなり、約12.5倍の高濃度を達成しました。
この成果は、温度制御などの環境管理がより正確であったことによると考えられます。CellMakerは内蔵のペルチェ式加温・冷却システムを用いて、インキュベーター内での温度ムラを回避します。また、気泡による攪拌が一定に保たれることも、結果の違いに寄与している可能性があります。
さらに、濃度だけでなく、一度に大量のライセートを迅速に得られる点も大きな利点です。複数の500mLフラスコを使用する従来法では、汚染リスクが増加しますが、CellMakerの8Lバイオリアクターバッグは、3L〜8Lの作業量に対応可能です。さらに、50L用のバッグもあり、10L〜50Lのスケールアップにも対応します。
結論
CellMakerは、アグロバクテリウムに対するバクテリオファージの増幅において、従来のフラスコ法よりも効率的かつ簡便な手法を提供します。
詳細については、ウェブサイトもご参照ください。